茶道具のきほん|お点前を支える11の名脇役(初心者向け 茶道具の解説記事)
茶道と聞いてまず思い浮かべるのは「お点前」の姿かもしれません。しかし、その一つひとつの動作の背後には、それぞれの道具の役割と歴史があります。
このページでは、茶道の世界で使われる代表的な茶道具を11種類に絞って、初心者の方にもわかりやすくご紹介します。
※ このページの情報は、当流(江戸千家渭白流)の解釈となります。流派によって、使用方法や解釈は異なりますので、あらかじめご了承ください。
1. 釜(かま)
茶道において湯を沸かす最も重要な道具のひとつが釜です。 使用する季節や炉の形式に応じて形状や置き方が異なります。見た目の重厚さと音、湯気の立ち方など、 茶室の雰囲気づくりに欠かせない存在です。
炉用の釜(ろよう)
冬の季節に使われる「炉(ろ)」の時期に用いる釜で、胴が深く、口が広めのものが多いです。 炉の中に釜が半ば埋まるように設置され、全体的に重厚で落ち着いた印象を持ちます。
風炉用の釜(ふろよう)
夏に使われる「風炉(ふろ)」の時期には、胴が浅く小ぶりな釜が主流です。 風炉の上に据えるため釜全体が見える構造となり、軽やかで涼しげな印象を与えます。

炉用の釜(冬)

風炉用の釜(夏)
2. 茶碗(ちゃわん)
茶道における茶碗は最も象徴的な道具のひとつです。焼き物の種類や風合いによって趣が異なり、 茶席の印象を大きく左右します。用途や季節に応じて使い分けられることもあります。
楽焼(らくやき)
手捏ねによる柔らかなフォルムと、黒や赤などの深い釉薬が特徴。千利休の美意識を色濃く受け継ぐ焼物です。
萩焼(はぎやき)
素朴な質感と優しい色合いが魅力。使うほどに風合いが変化する萩の七化けという特性を持っています。
清水焼(きよみずやき)
京都で生まれた伝統工芸で、シンプルなフォルムながらも、季節感を演出する華やかな絵付けが特徴です。

3. 茶筅(ちゃせん)
茶筅は、抹茶とお湯を混ぜ合わせるための道具で、竹を細かく割いてつくられる繊細な道具です。用途に応じて穂の本数や形状が異なり、濃茶と薄茶では異なる種類が使われます。
荒穂(あらほ)
主に濃茶(こいちゃ)に使われる茶筅で、穂の本数が少なく、太めでしっかりとした作りです。抹茶と湯をゆっくり丁寧に練り混ぜるため、力強い撹拌に適しています。
中荒穂(ちゅうあらほ)
荒穂よりもやや細かい茶筅です。現在では濃茶で使用される主流の茶筅となっています。
数穂(かずほ)
薄茶(うすちゃ)に適した茶筅で、穂の本数が多く、細かくて柔らかいため、泡立てやすいのが特徴です。なめらかで美しい泡をつくることができ、見た目の美しさも重視されます。

4. 茶巾(ちゃきん)
茶巾は、茶碗の湯を拭き取るための麻布です。見た目はとてもシンプルですが、点前の所作の中で何度も登場するため、美しく扱うことが求められる茶道具のひとつです。
小茶巾(こぢゃきん)
最もよく使われる標準的な茶巾で、長方形の麻布です。略点前・平点前など、多くの点前において茶碗を清める動作に用いられます。折り方や畳み方に決まりがあり、点前に入る前の準備として欠かせない存在です。
大茶巾(おおぢゃきん)
主に天目茶碗を用いた点前に登場する、正方形の大きな茶巾です。通常の茶巾よりも扱いが難しく、茶碗全体を包み込むようにして拭き取るため、より高度な所作が求められます。

5. 茶杓(ちゃしゃく)
茶杓は、茶入や茶器から抹茶をすくい取るための道具で、「一杓一服(いっしゃくいっぷく)」という言葉があるように、1杯分のお茶を象徴する繊細な存在です。 素材や形状によって「真・行・草」の格に分けられ、場に応じた使い分けが求められます。
真(しん)
最も格式の高い形で、象牙製や節のない竹で作られたものです。濃茶点前や正式なお茶会で使われることが多く、素材も所作も厳格な印象を与えます。
行(ぎょう)
真と草の中間に位置する格式で、木や竹などの無節素材が使われます。季節の茶会や、やや改まった席での使用に適しています。見た目はシンプルながらも落ち着いた品格があります。
草(そう)
一般的に最もよく使われる形式で、節付きの竹製の茶杓が代表的です。素朴で柔らかい印象があり、普段の稽古やカジュアルな茶会に用いられます。作者の銘が入ることも多く、茶人の個性が光る道具でもあります。

6. 茶入(ちゃいれ)
茶入は、濃茶(こいちゃ)を入れるための陶器製の容器で、格の高い点前に用いられます。一般的には、仕覆(しふく)という絹の布地に入れて扱います。お茶席ではひときわ注目される存在です。
尻膨ら型(しりぶくらがた)
胴が下の方でふくらんだ丸みのある形が特徴で、もっとも基本的な茶入の形とされています。やや柔らかく、安定感のある印象を与え、古典的な茶風に好まれます。
長茶入(ながちゃいれ)
縦に長い筒状の形で、スマートで引き締まった印象を与えます。尻膨ら型に比べてやや格式が高く見られることもあり、正式な席や、引締まった趣のある茶会などに用いられます。

7. 茶器(ちゃき)
茶器とは、薄茶(うすちゃ)用の抹茶を入れておく容器です。濃茶用の「茶入(ちゃいれ)」に比べるとカジュアルな場で使われることが多く、素材や形状も多彩です。
棗型(なつめがた)
漆塗りで丸みを帯びた椀型
の茶器で、薄茶器の代表格とも言える存在です。「棗(なつめ)」という名前は、その形が植物の「なつめの実」に似ていることに由来します。 シンプルな黒漆から蒔絵を施した華やかなものまで、装飾性にも富んだバリエーションが特徴です。
金輪寺型(きんりんじがた)
上が平らで下が少し丸みを帯びた重心の低い形
が特徴です。棗よりも落ち着いた雰囲気があり、格式のある茶席や、男性的な趣を演出したい場面にも好まれます。 名前の由来は京都の金輪寺に伝わる古型からと言われています。

8. 水指(みずさし)
水指は、茶道における「清らかな水」を蓄えておくための器です。点前中に茶碗や柄杓を清めるための水を供給し、見た目の存在感も大きいことから茶室の景色を構成する重要な道具とされています。
共蓋(ともぶた)
本体と同じ素材・同じ釉薬で作られた蓋のことを「共蓋」と呼びます。陶器製の水指に多く見られ、器全体の一体感が魅力です。格式が高く見えるため、正式な席や趣ある設えに適しています。
替蓋(かえぶた)
本体とは別素材で作られた蓋のことで、多くは木製の蓋(桑蓋・栓蓋など)が用いられます。軽やかで扱いやすく、季節感や意匠の変化を楽しむ茶席にふさわしい選択肢です。

9. 建水(けんすい)
建水は、茶碗をすすいだ湯や水を捨てるための容器で、点前中に使う「排水用の器」です。実用的な道具でありながら、形や素材により席の雰囲気や季節感を演出する要素としても大切にされています。
陶器製
萩焼や信楽焼など、焼き物の味わいを楽しめる建水です。ざっくりとした質感や土味があり、素朴で温かみのある印象を与えます。特に秋冬の席によく合います。
金属製
銅や真鍮、ステンレスなどの素材で作られた建水で、光沢のある華やかな雰囲気が特徴です。モダンな演出や、晴れやかな茶会、格式ある場に選ばれることもあります。
曲げ建水
桜皮や檜などを用いて円筒形に「曲げて」作られた木製の建水です。軽やかで風情があり、夏の涼やかな演出にぴったり。木肌の美しさや経年変化も魅力です。

10. 柄杓(ひしゃく)
柄杓は、水指や釜から湯や水をすくうための竹製の道具です。細くしなやかな柄と丸い椀(杓)が一体となった姿は、点前の所作において非常に象徴的な存在です。 季節や炉・風炉の違いに応じて、使い分けがされます。
炉用(ろよう)
炉用の柄杓は、柄の端部(切止(きりどめ))が、表側である皮目(かわめ)で斜めに切り落とされています。冬場に使われる「炉点前」では、柄杓を裏側にして釜に掛ける場面が多いため、このような形状となっています。
風炉用(ふろよう)
風炉用の柄杓は、柄の端部(切止(きりどめ))が、裏側である身(み)で斜めに切り落とされています。夏場に使われる「風炉点前」では、柄杓を表側にして蓋置に掛ける場面が多いため、このような形状となっています。
差通し(さしとおし)
柄杓の水を掬う部分(合(ごう))の中を貫通させた構造のものです。杓立(しゃくたて)に納めて使用する手前で使われる柄杓です。

11. 蓋置(ふたおき)
蓋置は、柄杓の蓋や柄杓の先を一時的に置くための小さな道具です。使われる場面は一瞬ですが、形や素材には多くの種類があり、席の趣や季節感を表現するアクセントとして重要な役割を担っています。
竹製
最も基本的な蓋置です。平点前(ひらでまえ)で主に使用されます。炉用(冬用)は竹の節が中程にあり、風炉用(夏用)は竹の節が上部にあり、使い分けられています。
陶器製
志野焼・瀬戸焼など、焼き物でできた蓋置は、温かみのある土の風合いが特徴です。形状も多彩で、動物や植物を模したものなど、見た目にも楽しいバリエーションが豊富です。
金属製
真鍮や銅などで作られた蓋置は、重厚感と光沢があり、格式のある茶席や男性的な趣の場面にもよく合います。冬の茶会などに凛とした印象を添えたいときに使われます。

静亮庵では、こうした茶道具の扱い方も含め、丁寧にご指導いたします。
道具の背景を知ることで、茶道がもっと楽しく、奥深く感じられるはずです。